ウィグモア座について
落語との出会い
子どものころ、大人が聞かせてくれるおもろい話が大好きでした。人を笑わせよう、子どもを楽しませようという心構えは、基本姿勢というかプライドというか、あの熱源が一体なんなのかいまだによくわかりませんが、そんな街で育ちました。
そして、大学の図書館に所蔵されている落語のビデオやテープを視聴して、あの大人たちの話のだいたいが落語家が落語の演目に入る前の雑談、特に桂米朝(べいちょう)師匠のそれだったことが判明します。大人たちは子どもを使ってしゃべりを練習していたのです。
そんな中で育った私にとって落語は比較的身近なものでありました。
大学を卒業後、就職してからの10年は、年に1度くらい見に行くだけで、ほとんど落語のことなんて忘れていました。
ところが、2023〜24年頃、仕事で行き詰まり、週末も「あの案件来週からどうしよう」「あのこと上司に何て説明しよう」と頭の中でぐるぐる。仕事のことしか考えられなくなって、簡単に言えば病みました。一旦会社を辞めて、通院で治療する期間がありました。
落語が私の人生に帰ってきたのはその前後でした。
仕事がどんどん辛くなっていく中、笑うことがなくなってきました。故郷を出て、知らない街での孤軍奮闘でした。
常に、お互いをなんとか笑かそうと切磋琢磨する謎の熱意に溢れた人々に囲まれていた環境からはもう離れていました。
私はその時、落語に頼るしかありませんでした。
ほんの束の間、安全に楽しい別世界に連れて行ってくれる。責任を背負って結果を出していかなければならない大人になった私(当たり前です誰でもそうです)にとって落語はかけがえのない存在になりました。
2024年7月に一念発起、より深く落語に関わってみたいと思い、友人の喫茶店を借りて初めて落語会を開催してみました。40名のお客様と一緒に噺(はなし)の世界へ。
このとき、その場にいた全員が一つの世界に包まれていく感覚が、プロモーター活動を始める決心をさせました。
今この瞬間の、浮遊感。一体感。
いつか、この40人の皆さんのうち、たった1人の人生のどこかの1秒で「最近なんか色々辛いけど、気分転換に落語でもいこかな。」と、この日を思い出して一歩踏み出してくれることがあるかもしれない。
落語会を作る人になるために十分すぎる動機でした。
これがウィグモア座のはじまりです。
名前の由来
WIGMORE HALL, LONDON
ロンドンのウィグモア通りにあるウィグモア・ホールは、質の高い室内楽を提供しながら、35歳以下には格安で音楽を聴くことができるチケット制度でクラシックの裾野を広げてきたホールです。少しおこがましいけれど、落語の裾野を広げる場所でありたい───その思いを込めて「ウィグモア」と名づけました。

感じていること
落語や講談など寄席での芸は今、「マニア向けの世界」というイメージを持たれがちだと感じています。「特別な場所へ行かないと観られない」と思っている人も多いのではないでしょうか。
「落語に興味はあるけど、1人ではよう行かんわ」───
友人のひとことが、ウィグモア座の出発点。
難しく考えなくていい。演者の出来を採点分析するのでもなく、ただただ笑って帰る─── そんな入り口を、もっとたくさんの人に向けて開いていきたいと考えています。
ウィグモア座がめざすこと
落語が、ふとした日の選択肢のひとつになること。それがウィグモア座のめざす世の中の姿です。
「行ってよかった」と思える落語会をつくり、演芸への心理的な壁をなくす
落語会に関わる場所と演者の魅力を、広く届けるブースターになる
地域の落語会が増え、プロモーターも生まれる

